研究概要 |
本研究では,研究代表者自身がこれまで開発を進めてきた表面波の有限波長トモグラフィー法をさらに発展させることで,異方性媒体の場合にも適用できるように手法を拡張し,上部マントル内部の高分解能な3次元異方性分布の復元を目指している.特に近年,広帯域地震観測網の発展が著しい西太平洋地域の地震波形データに対して新手法を適用し,この地域下の上部マントル内部のダイナミクスを明らかにすることを目的としている.2年計画の1年目である今年度は,まずレイリー波及びラブ波のマルチモードの位相速度から,上部マントル内部の偏向異方性の3次元分布を復元するための解析プログラムの作成を行うと同時に,データ収集及び解析を行った.また,現段階ですでに十分な数のレイリー波及びラブ波の位相速度データが集められたオーストラリアとその周辺地域に対して,SV波及びSH波の3次元速度構造の復元を行い,新しい高分解能な3次元S波偏向異方性モデルを作成した.これにより,大陸リソスフェアの直下において明瞭なSH波の高速異常の存在が示され,またサンゴ海の海洋プレート直下でも顕著なSH波の高速異常が確認された.これらの結果は,年間約7cmの高速度で移動しているオーストラリアプレート直下における大規模な水平流の存在を示唆している.この成果は,日本地震学会秋季大会(札幌),及び,チリ・サンチャゴにおける国際地震学・地球内部物理学協会(IASPEI)総会において口頭発表を行い,現在,国際学術誌に投稿すべく準備中である.また,オーストラリア大陸の表面波トモグラフィーモデルから推定される上部マントル内部の3次元温度分布に関する共同研究の成果を,国際誌に発表した.さらに,本研究とも密接に関連する表面波の有限波長トモグラフィー法の新しい理論に関する論文を国際誌に発表した.
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