本年度は申請者が開発を続けてきた氷床流動モデルの開発改良を主として行った。現行の多くの氷床モデルは現在の氷床縁辺の再現が他の領域と比較して悪い。いくつかの原因が考えられるが、そのうちの一つが数値モデル構築方法自体に内在する問題である。本研究では端の再現を向上させる数値手法を考案し、その開発実装を行った。モデルを理想的な条件下で試験し、従来のモデル手法と比較することによりその効果を解析した。この数値手法に関しては、来年度の論文投稿に向けて準備中であり、さらに来年度の国際雪氷学会での発表を申請した.また、理想的な条件下での高次力学の効果を考察した論文「EISMINT model intercomparison experiments with first order mechanics」がJournal of Geophysical Researchに受理された(主著者は申請者、副著者に阿部彩子とHeinz Blatter)。この論文で、氷床縁辺の再現の悪さが縁辺だけでなく氷床全体の再現に影響をおよぼすことを指摘した。さらに、現行のモデルでのグリーンランド氷床の再現実験を行い、現実の再現について解析した。本年は降雪、融解などの気候条件を変えた感度実験を複数行い、それによる不確定性を調べた。また来年以降の実験に用いる解像度について予備の調査を行ったが、上記の数値手法の改良などの効果を含めて総合的に判断するには、さらに実験が必要であると考えている。
|