研究概要 |
海氷輸送量変動の海洋大循環に果たす役割を調べるためにこの課題で用いてきた海氷-海洋結合モデルは、北極海陸棚域での高密度水の形成とその北極海への流れ込みに関して問題があり、結果的に北極海上層〜中層の鉛直成層の再現性に難点を抱えていた。本年度の研究ではこの問題点に対処すべくモデルの改良を行った。 まず、海面付近の鉛直構造に直接影響を及ぼす海面混合層パラメタリゼーションに関しては、本研究の標準的な混合層モデル(Noh and Kim,1999)における風による乱流エネルギーのインプット項を不確定性の範囲で大きく見積る、海氷下での混合の効果をTimmermann and Beckmann(2004)にならって加えるなどの変更を加え影響を見た。また、高密度水の形成に関与する対流のパラメタリゼーションに関しては、標準的に組み込まれていたシンプルなモデルをより精緻に物理過程を考慮したモデル(Paluszkiewicz and Romea,1997)に差し替えることによる影響を調べた。さらに、形成された高密度水の輸送過程に関与している海底境界層パラメタリゼーションに関しての箱型海洋モデルによる予備実験の結果から、このパラメタリゼーションにおいて海底の傾斜が緩やかな場所(たとえば北極海における高密度水形成域を含む陸棚域がこれに相当する)での輸送量が渦を解像できるモデルの結果に比して過少であることを見出し、これを補うために海底境界層内に海底傾斜に依存した水平拡散を加える改良を施し、結果を調べた。 以上3点の試みから、海底境界層内に水平拡散を与える手法が場に最も顕著な影響を与えることがわかった。しかし現状では水平拡散が逆に陸棚上の低密度の水を過度に輸送してしまう点などが課題として残されており、さらなるパラメタリゼーションの改良が望まれる。
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