本研究の目的は、黄砂(ゴビ・タクフマカン砂漠、黄土高原から発生する鉱物粒子)が、上層大気中で氷晶核(氷晶の雲を形成する核)として作用することによって雲を生成し、気候や降水過程に及ぼす影響を明らかにすることである。具体的には、気球に観測装置を搭載し、上層大気中の微粒子(エアロゾル)と雲粒子の数濃度とサイズ、形状の鉛直分布を観測し、これらの対応を明らかにする。本年度は気球観測を実施した。 1.気球観測の実施 5月10日と5月22日の計2回、黄砂が日本上空に飛来し、かつ上層雲が分布する条件下で、気球観測を実施した。観測は成功し、エアロゾルと雲粒子の数濃度とサイズ、温度・湿度の鉛直分布が得られた。また、これと同期してラマン散乱式レーザ・レーダ観測をおこない、エアロゾルと雲の光学特性の鉛直分布を得た。 2.気球観測データ解析と取りまとめ 気球観測データの解析をおこなった。その結果、対流圏全域(地上〜高度12km)で、黄砂と考えられる半径1ミクロンのエアロゾルが数濃度10-0.01個cm^<-3>で分布したことが分かった。また、上層雲が高度8-12kmに分布し、その中には、大きさ10-200ミクロンの氷晶が数濃度0.02-0.04個cm^<-3>で分布したことが分かった。上層雲が検出された領域における温度・最大氷相対湿度は、黄砂の氷晶化条件(温度-12度以下、湿度110%以上)を満たしていたことから、黄砂から氷晶が生成した可能性が明らかとなった。 この観測結果の意義は、通常観測が困難である上層大気気中のエアロゾルと雲を同時観測したことにあり、黄砂が気候や降水過程に及ぼす影響を評価するための重要なデータとなる。この結果をとりまとめ、日本気象学会、米国地球物理学会等で発表した。現在論文を執筆中である。 3.室内実験結果の取りまとめ 前年度におこなった黄砂標準試料のサイズ測定実験結果を取りまとめ、日本エアロゾル学会等で発表した。論文を国際科学雑誌(Journal of Aerosol Science)に投稿した(現在査読中)。
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