近年、大気の季節内・年々変動における、対流圏-成層圏結合変動の重要性が認識されてきた。このうち、対流圏が成層圏に影響を及ぼすプロセスを担うのは、対流圏で励起され成層圏に伝播する惑星波(PW)である。PWの励起源としては、大規模な山岳地形や海陸コントラストに加え、総観規模の傾圧波(SW、日々の天気図に見られる高低気圧)の非線型効果がある。地表の東西非一様性が比較的強い北半球では前者のプロセスが重要であり、一方海洋が大きな領域を覆っている南半球では後者のプロセスが優勢である。 SWによるPW励起プロセスについては、理想的な状況を想定した大気数値モデルを用いた実験的な先行研究がある。本研究では、同様のモデル設定を用いたシミュレーションデータの診断的解析により、このプロセスの理解を深めることを試みた。実験設定としては、理想的状況を考察するため、変動の大きな冬季に注目し、実験条件は完全に東西一様なものとした。従って、この実験で得られるPWは全てSWからの強制で生じるものである。 まず1200日に及ぶモデルデータにおいて、PWが対流圏で増幅し成層圏に伝播する顕著な事例を特定し、該当期間における対流圏循環の様相を詳細に解析した。PW増幅を、準地衡渦位(QGPV)方程式を用いて診断した。すると、ごく高緯度におけるSWからの非線型強制がこのPW増幅に寄与していることが分かった。一方、このような強制を生む、気圧場などでのSWの総観的な特徴はあまり顕著なものではなかった。以上の結果は、日本気象学会平成18年度秋季大会において発表した。
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