本研究ではインドネシア・スマトラ島の赤道大気観測所(南緯0.2度、東経100.32度、海抜高度1865m)に設置されたVHF帯ウインドプロファイラー(Equatorial Atmosphere Radarまたは赤道大気レーダー;以下EAR)の鉛直流観測データ、European Centre for Medium-Range Weather Forecasts(ECMWF)による高分解能(鉛直60層・水平分解能約0.35度)Operational Analysisから得られた温度場や水平風場のデータ、ライダーで観測されたエアロゾル・巻雲の観測データ、気球(ラジオゾンデ)による温度データを用いて上部対流圏及び下部成層圏における鉛直流変動と物質輸送との関連を調べた。EARにおいて、鉛直方向にのみビームを集中的に指向し信号対雑音比を向上させることで鉛直流を良い精度で観測する観測モードを開発し、上部対流圏における鉛直流のデータ取得率を向上させた。上記の鉛直流観測データを用いて総観規模(1000kmスケール)の活発な対流システムが存在する際に対流圏中層に継続的な5cm/s程度の上昇流が存在する一方で、熱帯対流圏界遷移層(Tropical Tropopause Layer ; TTL)と呼ばれる高度14-17kmの領域には下降流域が存在し、その下降流が対流総観規模のシステム風下側の温位面勾配により説明し得ることを査読付き国際学術誌(Radio Science誌)に発表した。また10分以下の短いスケールの鉛直流変動と物質輸送との関連について詳細に調べた。本研究で得られた観測データをさらに解析することにより、大気中の物質輸送を決定する重要な物理量である鉛直流と物質輸送の関連のさらなる解明が期待される。
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