研究概要 |
研究代表者らは、スマトラ島西部山岳域(Kototabang)において全球測位システム(GPS)を用いた水蒸気観測を2001年より継続しており、夕方に可降水量が最大となる顕著な日変化が存在することを示してきた(Sasaki et al. 2004)。この日変化は、静止気象衛星(GMS)データ解析により指摘されてきたスマトラ島周辺の雲活動日変化とも整合する(Sakurai et al. 2005)。 降水の詳細な平面分布を把握するため、熱帯降雨観測衛星(TRMM)データの解析を実施した。同衛星による観測頻度は、低緯度帯では数日に1回程度だが、長期間のデータを合成し日変化成分を抽出できる状態とした。その結果、夕方にスマトラの山脈に沿ったライン上の降水帯が形成され、夜間にかけて雨域がインド洋方面へ西進する顕著な日変化が確認された。雨域の到達距離は、スマトラ島西岸から沖合300km程度にまで及んでいる。年雨量で見ると、スマトラ島上よりも島の西側に隣接するインド洋近海上で圧倒的に多いという興味深い結果も得られた。 夜間の海上の多雨のメカニズムに着目し、研究代表者らの研究グループは、領域気象モデルによる雲解像度数値実験を試みた。モデルはPSU/NCAR mesoscale model(以下MM5)を用い、個々の積雲をパラメータ化せず、雲微物理過程を計算している。実験結果によれば、夕方のスマトラ山岳の対流活動に伴う冷気流の海上での収束と、マルチセルシステムによる持続的なメカニズムが夜間のスマトラ近海上の多雨の主因であることが指摘された(Wu et al., submitted)。 次年度以降は、スマトラ近海の小島(Siberut)にて当研究グループが計画中の高層観測や、地球観測システム構築推進プランにおいてスマトラ島西岸に設置予定の気象レーダー等のデータ解析を通じて、モデル結果の検証を実施する予定である。
|