研究概要 |
スマトラ島上にて対流雲活動の日周変化の最大時刻が夕方に現れることは、GMS雲画像データを用いた過去の研究において既に指摘されていた。一方、長期間のTRMM衛星データを用いて降水分布の日周変化を詳細に解析すると、陸(スマトラ島)上と西側に隣接する近海(インド洋)上で降水ピーク時刻が異なること、さらに、年間の総雨量を比較すると近海上の方が陸上を大きく上回っていることが明らかとなった。海上では、日没後から深夜にかけて降水が生じ、その持続時間は島上よりも長い。 近年開発された高解像度大気大循環モデル(GCM)による数値実験結果は、スマトラ島上の夕方の降水ピークを再現している。しかし、西側近海上の夜間の降水はほとんど見られない。同地域の降水予測における陸上と海上での総雨量の違いは、水資源の確保や農業開発、海上交通システムの安全対策等、様々な社会的影響をもたらすことが考えられる。日周期的に発達する積雲がこの地域の降水を支配していることから、個々の積雲を解像できる領域気象モデルを用いた数値実験が実施され、以下の結果が導かれた。夕方にスマトラ島上の西海岸に隣接する山岳で積雲が発達し、その冷気外出流が斜面を滑降して西側海上に吹き出し(東風)、日没後に海上の西風と収束して対流が発達する。海上の西風は山岳の夕方の対流に励起されたものと考えられる。この降水システムは自己増殖型の性質を持ち、深夜にかけて持続的に降水をもたらす(Wu et al.,2007,JAS,改訂中)。 18年度に、スマトラ島西部沿岸域(パダン)に気象レーダーが設置された(http://www.jamstec.go.jp/iorgc/harimau/HARIMAU_jp.html)。19年度には、既に現地にて観測中のGPS水蒸気データを領域モデルに同化させてレーダー観測と比較し、降水再現の評価を定量的に行う予定である。
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