研究概要 |
西スマトラ周辺域にて日々発達する降水システムを監視するため,地球観測システム構築推進プラン(JEPP)・海大陸レーダーネットワーク構築(HARIMAU)プロジェクトの一環として,18年度にスマトラ西岸のパダン(Padang)に気象レーダーが設置された。同地域では,高層ゾンデ集中観測やGPS機器による水蒸気連続観測も行われている。 数値実験による西スマトラ降水システム再現性の定量的評価を行うためのアプローチとして,18年度の集中観測期間の降水発達事例を対象に雲解像度数値実験を実施して,気象レーダーによる雨量の観測値と結果を比較し,数値実験と現実場の降水とのずれが生じる理由を探るとともに,再現性向上のため観測データを数値モデルに同化させるためのデータ変換等を行った。 最初に,領域気象モデルを用いて数値実験のコントロールランを実施した。特に雲解像度実験は,全球客観解析データをモデル入力用に変換する際の入力データ及び計算出力データの容量が膨大となるため,大容量記憶装置にて計算結果の解析を行った。その結果,18年度集中期間中の降水事例は定性的には再現されたが,定量的には精度よく再現されなかった。原因として,入力データの水蒸気量が過小評価傾向にある点を見出した。同地域周辺の全球客観解析には水蒸気量の観測値がほとんど反映されておらず,現実値とのずれが生じやすいことが考えられる。 これらの結果は,雲解像度数値実験における高精度の水蒸気情報入力の必要性を示唆している。以上を踏まえ,GPSやゾンデ観測から得られた水蒸気量を数値モデルに同化させるためのデータ変換作業が実施されている。今後の課題として,西スマトラの水蒸気量観測値を数値モデルに同化させ,雨量の再現性向上を試み,量的再現に決定的な要素を特定することが望まれる。
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