研究概要 |
本研究では,津波堆積物が形成される過程や分布傾向を定量的に評価するため,津波による堆積物の侵食,沖合方向への運搬,および津波堆積物形成過程を水理実験により再現することを主目的とする. 本年度は,斜面を設置した1次元水路(全長15m)を本実験用に新たに開発し,津波による堆積物の侵食,沖合方向への運搬,堆積過程の定量的評価を行った.土砂移動数値モデルを用いた過去の研究では,引き波時の土砂移動量が過小評価になることが報告されている.これは,実験に用いる砂は混合粒径であるのに対し,数値モデルでは単一粒径を用いているため,細粒砂が選択的に侵食されるという効果がモデルでは評価できていないためではないかと考えられる.そのため,本実験では単一粒径を用いて,押し波による堆積物侵食・堆積実験,引き波による堆積物侵食・堆積実験,および押し波と引き波による堆積物侵食・堆積実験の三種類を行い,粒径の違いによる堆積物の挙動の変化を調べた. 実験では,水槽底面の一定区間に砂を敷いて移動床とし,そこに津波を想定した孤立波を入射させた.そして,津波が最大遡上点に達した時に格子状のトラップ装置を用いて20cm間隔で砂を回収し,乾燥重量を計測することで押し波による侵食・堆積量の推定を行った.また,孤立波(1波)が完全に排水した後に斜面に残っている砂を残存砂とした.砂の粒径は,106〜212,212〜300,300〜400,400〜500,500〜600μmの5段階に篩い分けし,実験を行った.その結果,粗粒砂の場合は層流形態での移動が卓越するのに対し,細粒砂を用いた場合は浮遊形態での移動が卓越することが明らかになった.さらに,同じ層流力では細粒砂の方が流動しやすく,特に引き波発生時に選択的に侵食される様子が観察された.このような細粒砂の挙動が,数値モデルにおける過小評価の原因になっていると考えられる.
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