研究概要 |
EBSD分析試料の作成のためには,化石標本や貝殻試料を鏡面研磨する必要がある.その際に問題となったのは,殻の表面が研磨に伴って細かく"こぼれる"ことをいかにして防ぐかであった.そこで,保存は良いが脆い化石試料(イノセラムス)について様々な方法を試したところ,樹脂に包埋した標本を切断せずに磨り飛ばして面出し,少しずつ細かい研磨剤で磨いては樹脂を滲み込ませる方法で何とかうまくゆくことがわかった.また,イノセラムスの蝶番部に見られる"刃状構造"と呼ばれる板状結晶について,それぞれの"板"に平行な薄片を作り,偏光顕微鏡で消光パターンを予察的に観察した結果,一枚の"板"の中でも波動消光のように消光位が変わり,それが放射状の様相を呈しているようにみえるものがあった.これは,"板"の内部で針状の結晶が放射状に伸長していることを示唆しており,今後SEM-EBSDによる詳細な結晶方位解析をおこなうことで検証できるものと思われる. また,殻の微細構造の伸長方向と殻表面の微彫刻の伸長方向との関係を様々な種類の二枚貝で検討した.微彫刻の中で,成長線に対してほぼ垂直な方向に走る対心円状彫刻は,従来結晶伸長方向を反映したものと考えられていたが,そうしたものとそうではないものとがあることがわかった.前者と後者では,成長線に対する彫刻の走る方向が僅かに異なるが,これは前者のパターン形成が結晶成長の異方性の影響を受けていると考えれば上手く説明できる.これも,EBSDによる結晶方位解析によって検証するべき課題である.
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