研究概要 |
現生の二枚貝類,巻貝類,頭足類(オームガイ)について,.真珠構造と呼ばれる微細構造の成長縁を電子顕微鏡で観察した,二枚貝に見られるシート状真珠構造と巻貝や頭足類に見られる柱状真珠構造との間で晶出直後の真珠結晶の成長様式を比較する狙いであったが,観察の結果,同じ種類の同一個体の中でさえ,部位によって成長様式にバリエーションがあることがわかった.例えば,柱状に重なるとされる巻貝の真珠構造でも,殻のより内側では成長縁は階段状になっていた.また,階段状に真珠層が重なるとされている二枚貝の場合でも,土台と成る稜柱層のすぐ裏側に成長する際には,稜柱同士の境界あたりから真珠結晶が晶出し始め,稜柱層を完全に覆うくらいまで真珠層が重なってから階段状の成長縁に移行する様子が見られた. 巻貝とオームガイについては,電子顕微鏡一電子後方散乱回折装置(SEM-EBSD)を用いた結晶方位解析を行った.殻内面と平行な薄片で見たところ,同じ柱状真珠構造でも,オームガイでは結晶方位が比較的良く揃っているのに対して,巻貝ではあまり揃っていないという結果が得られている.形態的特徴と同様に,結晶方位にも部位によるバリエーションがある可能性があるので,現時点で得られているデータだけでははっきりとしたことはいえないが,従来報告されているX線による分析結果と一応調和的である.アラゴナイトのエピタキシー成長を想定したモデルを考えれば,両者の違いは,土台となる外層のすぐ裏側での真珠結晶の結晶方位を揃える機構の有無に帰着される可能性がある.
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