研究概要 |
1.野外定点観測 慶良間列島阿嘉島の礁原での定点観測を継続し、大型有孔虫の棲息密度を調べるための定期的な試料採取と水温・光量データの連続槻測を行った。その結果、大型有孔虫は、春から夏にかけて個体群密度が増加するとともにサイズ組成が小さくなり、秋から冬にかけて減少するとともにサイズ組成が大きくなっていくことが明らかとなった。また、大型有孔虫の成長率・死亡率・生殖率と季節的な環境因子(水温・光量)の変化との関係を探るために、自作のケージを用いた野外成長実験を行った。 2.水温耐性実験 水温を一定に調節させる装置と有孔虫及び海水を密閉させる培養容器を用いて、5-45℃に対する培養前後の海水中の溶存酸素量の変化を測定する方法により,沖縄周辺の礁原に多く棲息する大型有孔虫3種(Baculogypsina,Calcarina,Marginopora)の水温耐性を調べた.実験の結果,大型有孔虫の最適水温は3種とも30℃であり,純光合成量が負になる上限水温は35-37.5℃である.純光合成量が0に近くなる下限水温はBaculogypsinaとCalcarinaでは17.5-20℃,Marginoporaでは10-12.5℃である.また,高水温の測定後に25℃に戻した測定では純光合成量の回復はみられないが,低水温の測定後では回復がみられる.また,呼吸量は純光合成量と比べて水温に対する変化に乏しい. 3種の純光合成量を比較すると,BaculogypsinaとCalcarinaは水温に対してほぼ同じような応答を示すが,Marginoporaは他の2種よりも一次生産力が高く,かつ低水温に対して広い耐性を示す.これら3種の水温応答及び耐性の差は,共生する微細藻の種類が異なるためと考えられる,本研究の結果に基づくと,水温は生息分布に大きな影響を及ぼさず,水温以外の環境因子(光,底質)に分布が制限されると考えられる.また,生活史や季節性に対しては,海水温が大型有孔虫-微細藻共生系にとって最適な水温範囲内になるのを引き金に生殖が開始されたりするが,死亡には海水温の低下が直接的な要因になっていないと考えられる.更に大型有孔虫は高水温(〜37℃)でも白化しない.これは殻が不適な水温環境を緩和するシェルターの役割を果たすためと考えられる.
|