研究概要 |
微生物起源の層状堆積物(バイオマット)は,ストロマトライトに代表されるように少なくとも35億年前から形成されてきたと言われている。バイオマット中では,異なる種類の微生物が共生システムを形成し,炭素・硫黄・鉄などの物質やエネルギーのやりとりを行っている。このようなバイオマットを研究対象として,鉄・硫黄・炭素の生物地球化学サイクルの進化を理解する(すなわち微生物圏の生態系や環境因子を探る)ことを目指すのが本研究である。中でも,バイオマット中の鉄循環について理解を深めることは,鉄代謝が地球史初期の微生物活動において重要な始源的なプロセスであることより,微生物進化及びその環境因子を探る上で特に重要である。微生物の代謝の際には,鉄が大きな安定同位体分別を起こすことが最近になって知られるようになってきたことから,地球史を通じて鉄を理解する際には,鉄の安定同位体地球化学が非常にパワフルなツールとなる。 本年度の研究では,交付された科研費を用いて,太古代の試料及び現代のバイオマット試料の基礎的地球化学データの取得を中心に行い,あわせて鉄同位体組成測定用機器の消耗品や野外調査用機器の購入をし,鉄同位体地球化学に関する国際学会発表を行った。そして,鉄同位体を用いた生物地球化学に関連する論文をサイエンス誌等に合計で6本発表し,他に初期地球の大気環境の進化に関する論文を1本発表した。
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