本研究の主目的は、地殻下のマグマ溜り内において、どのような時間スケールでマグマの熱・物質進化が進行するのかについて、定量的な理解を得ることである。その目的達成のため、本年度の研究計画は、(1)利尻火山の噴出物のうち、親子関係であることが分かっている玄武岩と安山岩を対象にU-Th放射非平衡を用いた年代測定を行い、天然からマグマ進化の時間スケールの情報を直接得ること、さらに(2)無斑晶質ソレアイト玄武岩についてのマグマ分化メカニズムを明らかにする目的で、まず伊豆大島の溶岩流の調査・試料採取・岩石学的検討を行うこと、であった。まず(1)については、マグマ噴火後の脱ガスに伴うU-Thの元素分別を利用するという、世界で初めての画期的な手法でアイソクロンを描き出すことに成功し、その結果、約2万年前、という測定結果を得た。一方、玄武岩についてはアイソクロンを用いて年代決定を行うことができなかったため、単一火山においては始原的マグマのTh同位体比はほぼ一定、という仮定を用い、約4万5千年前、というモデル年代を得た。以上の結果から、利尻火山下において、玄武岩から安山岩まで組成進化するのに2万5千年程度の時間を要していたことが判明した。また、全岩の主要元素の組成トレンドに対応するTh同位体比及びTh/U比のバリエーションを精密に決定することができ、来年度以降において、マグマの熱・物質進化を完全に時間の関数として表現することができる手がかりを得た。その一方で(2)については、(1)におけるU及びTh同位体比測定に、予想をはるかに超える時間が費やされたため、来年度以降に持ち越しとなった。
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