本年度は、二酸化ケイ素の結晶(コーサイトおよびクリストバライト)を試料としたケイ素・酸素のX線吸収端エネルギーに対応するX線ラマンバンドの測定を常温常圧条件の下で行った。さらに、ダイヤモンドアンビルセルを用いた高圧下でのX線ラマン散乱測定を行った。この測定ではシリカガラスを試料とし、端近傍のスペクトル構造の変化を観察することにより、シリカガラスの構造の圧力変化について調べた。これにより、まず酸素原子の局所構造に変化が起こり、その後ケイ素原子の局所構造が変化していくという圧縮機構を示唆する結果を得た。 さらに第一原理によるスペクトル計算にも取り組み、密度汎関数法を用いたバンド計算により実験結果をよく再現することができた。実験結果との比較により、酸素原子の局所構造の変化は、ケイ素-酸素-ケイ素の結合角の減少であることが予測された。 X線ラマン散乱によるフォノンの分散関係の決定は、現段階では非常に困難であることがわかった。コンプトン散乱や多重散乱によるバックグラウンドが大きいことと、現状の放射光施設の強度では限られた時間内に十分な強度が得られなかったことが原因となり、X線ラマンバンドの広域構造を定量的に解析することが困難であるためである。今後のX線の更なる高輝度化と分光計の改善によって、実行すべきであると考える。
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