本年度の目標は、(1)希ガス質量分析計の高感度化と、(2)水を含むマントル物質の採取・分析試料の調整および放射化であった。幸い、名古屋大学の水上知之博士から、過去に水を含むマントル物質であった四国・東赤石カンラン岩体の試料を提供していただき、試料採取にかける時間と経費を節約できた。この試料には、マントルウエッジにおける水の痕跡である蛇紋石の他、カンラン岩体上昇時に形成された蛇紋石や、地表における風化作用により形成された蛇紋石が含まれている。そこでマントル起源の蛇紋石が、新鮮なカンラン石斑晶に取り込まれている点に着目し、まず試料を加熱して蛇紋石を分解することで、カンラン石外部の蛇紋石から希ガスを抽出し、次いで試料を破砕することで、カンラン石というカプセルに保持されていた、マントル起源の蛇紋石に由来する希ガスを選択的に抽出した。また東赤石岩体の上昇年代が約1億年前と古いため、この間に生じた放射壊変起源希ガスの量を知る必要があった。このため試料を日本原子力研究所の大洗材料試験炉で放射化し、^<40>Ar-^<39>Ar年代測定の手法を応用して、放射壊変起源希ガスの量を見積もった。このようにして、マントルウエッジで水とともにカンラン石に取り込まれた希ガスの同位体組成を決定できた。プレートの沈み込みに伴いマントルウエッジに供給される希ガスの同位体組成は、海洋地殻や堆積物に含まれる希ガスから推定されてきたが、実際のマントル物質を用いてその同位体組成を明らかにしたのは本研究が始めてである。国際会議における発表への反響も大きく、現在投稿論文を準備中である。 希ガス質量分析計の高感度化については、イオンビームを観察してイオン源を調整するための、マルチチャンネルプレートを備えた真空チャンバーを設計・製作した。しかし現在用いている四重極レンズ式イオン源が比較的高感度な状態で安定して使用できていることから、更なる改造は見合わせている。
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