研究概要 |
重イオン慣性核融合の粒子加速器システムで生成される粒子ビームをパルス圧縮する最終段領域において,そのビームダイナミクスを明らかにすることが研究目的である.この領域では,大強度の重イオンビームを急激にパルス圧縮するため,ビームの質の劣化が予想され燃料ターゲットへの効果的な照射を妨げるため,十分に検討されなければならない.非常に大電流なビームのため,空間電荷効果が大きくビームの挙動に影響を与え,プラズマのように振る舞うことも予想される.ビーム動力学シミュレーション用粒子コードを開発し,不安定性の成長やビームの質の劣化を検討して,合理的な重イオン慣性核融合のシステム設計のための指針を得ることが本研究の目標である.本年度はこれまでに構築した計算機環境とシミュレーションコードにより計算を行った.ビーム進行方向と半径方向の結合挙動やハロー粒子形成に起因する,大電流重イオンビームのパルス圧縮過程における不安定性やビームの質の低下を確認できた.本研究の結果として,重イオン慣性核融合の最終段における急激なパルス圧縮が引き起こす不安定性や質の劣化は,無視出来る程度ではないが,不可避で壊滅的な不具合を誘発するほどではないであろうと考えられる.国内では日本物理学会に参加し研究成果発表を行った.また,ビーム物理に関して活発な議論が行われる国際会議COOL07(ドイツ)にも参加し,空間電荷効果が影響を及ぼすビーム挙動についての発表を行った.得られた研究結果について,重イオン慣性核融合国際会議HIF08という本研究テーマに密接に関連した国際会議で招待講演を依頼されており,発表を行う予定である.さらに,東京工業大学の重イオン慣性核融合研究グループや高エネルギー加速器研究機構,米国ローレンス・リバモア国立研究所およびローレンス・バークレイ国立研究所の研究員とも情報交換や共同研究を進めることができた.
|