本研究の目的は、これまで困難とされてきたペレット溶発雲における厳密な局所電子密度の評価を可能とするための二次元分布計測手法を開発し、その確立を目指すことである。また、ペレット溶発雲中における局所電子密度の評価、すなわちそこから放射される線スペクトルのシュタルク拡がりの二次元的評価を行う際に鍵となるマルチスペクトル画像を簡便に取得するための手法として、複眼光学系を用いることの有用性を示すことも目的としている。平成17年度では、研究協力者である露国立サンクトペテルブルク工科大学物理工学部Vladimir Yu.Sergeev教授を招へいし、まず複眼光学系を用いたマルチスペクトル画像計測システムを共同で試作した。試作したシステムでは、マトリックス状に配置された9つのレンズ(複眼光学系)それぞれで捉えられたペレット溶発雲はフィールドレンズを介して12bit高速シャッターCMOSカメラにて撮影される。同試作システムによるトレーサ内蔵固体ペレットの溶発雲撮影実験では、ペレット溶発雲の空間特性を確認する目的で、各レンズの前にHα(中心波長655.5nm、半値幅5.0nm)、Hβ(中心波長486.5nm、半値幅10.0nm)、連続光成分(中心波長497.0nm、半値幅5.0nm)、C II(中心波長515.0nm、半値幅10.0nm)、C II(中心波長723.6nm、半値幅5.0nm)用の干渉フィルターそれぞれを設置した。結果として、露光時間10μsでのペレット溶発雲の撮影に成功した。この時のトレーサ内蔵固体ペレットの溶発時間が約700μsであったことから、溶発過程の一部分だけが捉えられている。また、いずれのレンズを通しても溶発雲全体が撮影されており、これらのことから、試作したシステムの基礎的な部分に問題がないことが分かった。ただし、残念ながらCMOSカメラのレンズの絞りを最小としても、各レンズで捉えた溶発雲それぞれの中心部は露出過度になってしまった。今後、選択する分光フィルターの中心波長及び波長分解能、追加すべき遮光フィルターの透過率などのパラメータの最適化を進めて、ペレット溶発雲中における局所電子密度の評価ができるようにする。
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