本研究では、研究代表者らが開発した新しい実験手法、(γ、2γ)法、を用い、内側の価電子が励起した結果「中空」となった分子多電子励起状態を探索することを目的とする。(γ、2γ)法は、光励起に伴い2つの真空紫外光子を放出する過程(AB+hv→AB^<**>→A^*+B^*→A+B+hv'+hv")の断面積を2光子同時計数により測定する方法で、高エネルギーの中性分子励起状態を超高感度で観測することができるばかりでなく、純粋に多電子励起状態のみに起因する断面積曲線を得ることが可能となる実験手法である。 平成18年度は、17年度のN_2に対する結果を受け、電子数がわずかに異なる等核2原子分子であるO_2を対象に、中空状態の探索を行った。本研究で新たに発見した多電子励起状態は、最も内側の価電子軌道に空孔をもつ状態であると考えられるが、そのエネルギーはN_2の多電子励起状態に非常に近いという結果を得た。最外殻電子および内殻電子の束縛エネルギーが両者で大きく異なることことを踏まえると非常に興味深い結果といえる。また、多電子励起状態からのスペクテーター・オージェ遷移の可能性を実験結果から引き出すことに成功した。これについては理論面から確証を得るべく分子軌道計算を進めている。これまで全く見ることのできなかった高エネルギーの中性励起状態を、電子数、原子核電荷のわずかに異なる分子で観測し、相互に比較できたことは意義深いといえる。 また、第三世代放射光施設BESSY II(ドイツ)にて、NOの内殻電子の励起状態ダイナミックスに関する共同研究を行った。NOの内殻光励起により誘起されたけい光放出を、真空紫外2次分光器を用いて分光することにより、内殻に空孔をもつ分子状態のオージェ崩壊に続く真空紫外けい光放出過程を観測した。
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