低温および高圧にわたる広い条件下においてナノ空間内分子集団の構造決定を行うため、X線を透過する窓を備えた20Kまでの低温、500kPaまでの高圧測定可能な吸着in situ X線回折測定セルを設計、製作した。装置は、試料ガス導入部、圧力測定部を含めてほぼ完成し、X線回折測定装置への組み込み、光軸調整を終え、実際の測定をすでに行える状態にある。この製作した測定システムを利用して、これまでに、活性炭を吸着媒として、窒素、および水素の吸着状態についての測定を行った。水素については、水素自身のX線散乱能が低いために吸着状態の情報を得ることができないのではないかという懸念があったが、臨界温度(33K)以下の、水素が蒸気となる条件で吸着状態のX線回折強度の変化を確認し、さらに77Kでも吸着水素による信号を捕らえることに成功した。これは炭素多孔質細孔内の「どこに」水素が捕らえられているかを知る重要な手がかりであり、今後測定、および解析を続ける予定である。窒素については77Kで回折強度が大きく変わり、温度(20〜150K)によってそのピーク位置が変化することを見出した。窒素吸着は多孔体の表面積、細孔容量を決めるもっとも標準的な方法であるにもかかわらず、細孔内の窒素の構造についての直接的な測定は行われていない。今回の検討はこれを初めて行ったものである。得られたX線回折図から、細孔内の3次元的な分子間構造を得るためのリバースモンテカルロプログラム、および吸着系への適用理論はほぼ完成しているが、今回作成したシステムに適用させるための修正が必要である。そのためのデータの集積は順調に進んでいる。上記の2系、および解析理論は現在論文投稿準備中である。来年度は測定法、解析理論を確立し、当初の目標であるナノ空間中における固液相転移挙動と分子混合状態を、分子間構造の立場から明らかとする。
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