研究概要 |
水溶液中の超音波吸収スペクトルの理論計算のための基礎として、水溶液中の硫酸マグネシウムイオン対の部分モル体積のイオン間距離依存性の計算を行った。イオン対の周りの溶媒和構造を一次元または三次元RISM積分方程式理論で計算し、部分モル体積をKirkwood-Buff理論で評価した。同時に計算したイオン間の平均力のポテンシャルには、それぞれcontact ion pair(CIP), solvent-separated ion pair (SIP), doubly solvent-separated ion pair (SSIP)に対応する極小点が2.85,5.0,7.0Åに見られたCIPとSIPの間には大きな活性化障壁が存在し、一方、SIPとSSIPの間にはほとんど障壁は見られなかった。このことは、SIPとSSIPの間の平衡が速いというYeagerらの主張と対応している。また、連続誘電体理論で電縮から計算される部分モル体積がイオン間距離の接近に伴い単調増加するのとは異なり、分子論的に計算されるイオン対の部分モル体積は、4.5Å付近に極小点が見られた。このことから、SSIPからSIPへの変化が体積収縮を伴うというEigen, Tammの解析が非物理的であるというHammesの主張は成立しないことが分かる。この極小点におけるイオン対の溶媒和構造を詳細に解析したところ、このイオン間距離では、水分子が陰イオンと水素結合をしつつ双極子モーメントを陽イオンと反対方向に向けた安定な水和構造が存在し、この構造が部分モル体積の減少に寄与していることが分かった。
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