研究概要 |
近赤外領域では特に振動が非調和的な水素を含む官能基の振動モードが顕著に観測される.このため近赤外分光法は水素結合の研究に適した分光法だと言える.しかし,近赤外スペクトルに現れるバンドは実際にはブロードで,しかも倍音だけでなく結合音やフェルミ共鳴によるバンドなどが複雑に重なり合い,各バンドの帰属はもちろん,ピーク波数や強度を正確に決めることすら困難である.そこで電場変調分光法の導入を提案するのが本研究である.試料に交流電場を印加すると,各バンドはシュタルク効果によってシフトやブロードニングを起こす.これは各振動モードの配向分極および電子分極を反映するので,各々のバンドで度合いが異なる.これを利用してバンドの帰属および基本音とn次の倍音バンドの対応を明確にすることを主目的としている.平成17年度の成果は以下の通り. 1.分散型分光計のセットアップ:実際の装置立ち上げはモノクロメータと電場印加セルの空間的余裕を持った光学系のセットアップに時間がかかり,通常の定常近赤外スペクトルが測定できる段階までしか進んでいない.ただし,電極の配置法やセルの設計などは既に終了しており,次年度の早い段階で電場変調スペクトル測定が実現する予定である. 2.表面プラズモン共鳴近赤外分光法との組み合わせ:代表研究者が以前開発した表面プラズモン共鳴近赤外(SPR-NIR)分光法は金属薄膜(厚さ10nm程度)近傍の試料の倍音・結合音吸収を高感度に捉える処方である.本計画の一部である混合自己組織化単分子膜(SAM)の相分離構造に関する研究の準備として,末端基の異なるアルカンチオールSAMの定常SPR-NIRスペクトル測定に着手し始めた.しかし分子の異方性や光学活性を考慮しないと,シグナルを捉えること自体難しいことが解ってきた.これは倍音や結合音遷移の特徴である可能性があり,今後更なる考察が必要である.
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