「イオン液体」の液体としての特殊性、および新奇機能性材料としての性質を、主に光電子分光法を用いて、電子状態の観点から解明することを目的として、本研究を実施した。光電子分光法は試料を高真空中に置く必要があるので、通常、液体には適用できないが、イオン液体は、蒸気圧が極めて低く、高真空中で取り扱うことができるため、適用可能であると考えた。 本研究ではイオン液体の液体、気体状態双方に光電子分光を適用する必要があるため、市販の測定装置は用いられず、新規装置の開発が必要であった。この装置は、試料を扱う部分と計測部分に大別できるが、今年度は後者にあたる、気相の光電子分光装置の開発に専念した。来年度、前者にあたる、イオン液体の気化装置「イオン対発生装置」を開発し、組み合わせる予定である。 今年度開発した計測部では、運動エネルギーを持たない光電子を選択的に捕集するしきい電子分光を可能とし、光電子スペクトルの分解能を向上させた。また、イオン対は混合物として気相に引き出されると予想されるので、本装置は特定の化学種からの信号のみを取り出すための光イオン光電子同時計測を行える設計とした。 しきい電子の分解能は、ヘリウムおよび酸素を用いて確認した。一方イオン検出および同時計測の性能評価は、研究代表者の所属部局で先行研究が行われているフラーレン類を用いて行った。フラーレン類は純度の高い試料が市販されており、固体であるため真空中でも取り扱いやすい。また気化が困難である点がイオン液体と類似しており、質量数もイオン液体中の部分構造に予想される値と同程度なので装置の試験に好都合である。フラーレンを用いて得られた結果について、成果発表を行った。 来年度は、計測部の性能向上を継続すると共に、上記のイオン対発生装置を開発し、組み合わせてイオン液体の光電子分光を実施する。また、液体状態の光電子分光も試みる予定である。
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