本年度は固体電解質の放射線誘起反応の素過程に関する準備実験として、構成要素であるイオン液体のパルスラジオリシス実験を行い、液体中に発生する電子の分光・反応特性を測定して電子の溶媒和構造と反応の関係を調べた。また、固体電解質のフィルム化に着手してその水分量や電気化学挙動を測定する装置を整備するとともに、Co-60γ線や加速電子線による酸化物共存の水溶液中の金属イオンの放射線誘起還元の実験を行い、様々な線質(γ線、電子線、制動X線など)の放射線を用いた実験を可能にした。 パルスラジオリシス実験では、イオン液体中の電子の吸収スペクトルが含有水分量の増加とともに短波長にシフトすること(水和による溶媒和エネルギーの上昇)や、電子の水和が水溶液中とは異なり第1配位圏で留まることを明らかにした。また、上記液体に陽イオンのユウロピウム(III)を添加するとスペクトルが長波長にシフトする一方、中性分子のアセトンを添加するとシフトしない(共存イオン/分子と電子の水和の競争)ことを見出した。さらに、水分量に比例して電子の1次減衰定数が増減すること(主に電子の水和による対再結合反応の抑制)などを明らかにした。以上の成果は国内および国際会議で発表するとともに、今後、雑誌論文や特許などの形で発表する予定である。 本年度の成果は構成要素であるイオン液体の放射線耐性や液体中の反応挙動に対する知見を与え、今後行う固体電解質での実験の比較データとして有益であるだけでなく、様々な溶媒和構造を持った電子を活用して金属ナノ粒子生成や有機物分解などの反応を制御する反応場としてイオン液体が適用可能であることを示している。
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