前年度までに、固体電解質中の放射線誘起反応およびその放射線耐性は構成要素であるイオン液体の種類に大きく依存することを明らかにした。本年度は、イオン液体中の主要な活性種である溶媒和電子の反応挙動を研究協力者と調べるとともに、水溶液を媒質とした酸化物添加による金属イオンの促進還元の初期過程を研究した。さらに、国内外の会議に参加して、これまでの研究成果を広く発表するとともに、専門家との議論による研究動向調査を通じて、今後のイオン液体や固体電解質の研究・開発を展望した。 放射線照射でイオン液体中に発生した溶媒和電子の過渡吸収を、阪大産研LINACを用いたパルスラジオリシス法で観測した。ナノ秒パルスラジオリシスでは添加物のピレンとの反応を測定し、ピレンが溶媒和電子だけでなく溶媒和前のドライ電子とも反応することを明らかにするとともに、イオン液体の分解および電子の発生収量を評価する上で重要になる溶媒和電子のモル吸光係数を定量した。さらに、ピコ秒パルスラジオリシスでは電子の溶媒和挙動を測定し、イオン液体の粘性度および構成イオン濃度に依存して80ピコ秒程度で溶媒和することを明らかにした(論文2件投稿済み)。また、酸化物添加による金属イオンの促進還元の研究では、酸化物のイオン化で発生した二次電子がおもに促進還元に関与し、酸化物に白金族元素を分散すると、酸化物の励起で生成した表面電子も関与することを実験的に明らかにした(招待講演で発表)。以上の成果をもとに、引き続き国内外の会議で発表するとともに、投稿論文や特許で発表する予定である。本課題で系統的に明らかにした固体電解質の構成要素であるイオン液体の放射線耐性や材料創製・有害物分解の反応場としての特性、ならびに反応を促進する酸化物の添加効果をもとに、放射線照射下の反応場として最適な固体電解質の開発が期待できる。
|