研究概要 |
凝集酸素の局所構造および2p電子状態を調べるために,高圧下X線ラマン散乱(XRS)測定法の開発を進めている.本年度は,昨年度作製された高圧発生装置ダイヤモンド・アンビル・セル(DAC)を用いて,以下で示す2種類の配置でXRS測定を行った.XRS測定はすべて大型放射光施設SPring-8のBL39XUにおいて,孔雀型発光分光器を用いて行われた. (1)Diamond IN-Diamond OUT配置(SPring-8 Proposal No.2006A1073) 超高圧下での凝集酸素の電子状態を調べるためには,XRSシグナルの検出方向に対して比較的制約の少ない本配置でのXRS測定を実現する必要がある.本測定では7枚のSi球面湾曲アナライザー結晶を用いてXRS測定を試みた.本測定でのエネルギー分解能は1.2eV@10keVであった.本配置では,DAC内に封入された酸素の量に対して圧倒的にダイヤモンド中の炭素の量が多く,それによるX線吸収量が多いために酸素のXRSシグナルを観測することはできなかった.本配置でXRSシグナルを検出するためには,X線が通過するダイヤモンドのパスを短くするか,試料室を大きくすることによって酸素の絶対量を増加させることによるXRSシグナルの増大を図る必要があることがわかった. (2)Be In-Be OUT配置(SPring-8 Proposal No.2006B1475) DAC中の酸素からのXRSシグナルを観測するために,ダイヤモンドよりもX線吸収量の小さいBeガスケットの方向に入射および散乱X線が通過するような配置での測定を試みた.本配置のメリットは,酸素の実効的な厚みも稼ぐことができることにある.ただし,本測定で用いた孔雀型発光分光器にDACを設置した場合,2方向からしかXRSシグナルを検出できないため,本配置においてはSiアナライザー結晶を2枚だけ用いてXRS測定を行った.本測定でのエネルギー分解能は0.95eV@8keVであった.本配置においては,酸素分子からの顕著な1s→π,1s→Rydberg状態への遷移に対応したピークが観測され,軟X線領域で観測される酸素のX線吸収スペクトルと類似した形状のXRSスペクトルの観測に成功した.しかしながら,統計精度の面では十分であるとは言えず,今後,さらなる改良の余地があると考えられる. 以上のように,DAC中での凝集酸素のXRS測定には成功したものの,高圧下での酸素の各相における局所構造や2p電子状態についての詳細な情報が得られるまでには至らなかった.しかしながら,今後,試料周りや検出系等の改良によって,より明瞭なXRSスペクトルが得られるようになれば,凝集酸素の局所構造や電子状態に関する新たな知見が得られ,多面性を見せる高圧下酸素の理解が深まることが期待される.
|