研究概要 |
アセチレンの炭素の1つを同族の高周期元素であるスズに置き換えた化合物であるスタンナアセチレン(1;R-Sn≡C-R',RおよびR'は置換基でそれぞれR=C_6H_3-2,4-Tip,R'=Si(i-pr)_3)は、炭素のアセチレンとは異なり不安定で、発生後直ち隣接する原子と反応してしまうことを明らかにしていた。今年度は、スタンナアセチレンの反応性に及ぼす置換基効果を明らかにするため、先の研究で利用した1において置換基の立体的かさ高さのみを減少させたスタンナアセチレン(2;R-Sn≡C-R',R=C_6H_3-2,4-Tip,R'=SiMe_3)を設計し、その反応性を詳しく研究した。その結果、スタンナアセチレンの寿命に顕著な違いが観察され、1では50ミリ秒であったのに対し2では3.7マイクロ秒とかなり不安定化することが示された。これは、スタンナアセチレンが嵩高い置換基による立体保護を受け速度論的に安定化されていることを示している。つまり、スタンナアセチレンは本質的に不安定であることが明確になった。さらに反応性についても違いが見られ、1ではカルベン部分がCH結合に挿入するのに対し、2ではカルベン部分がC=C結合に付加して特異な構造のスタンニレンを与えた。以上のように、スタンナアセチレンの性質を系統的に解明する研究成果を得た。これらの結果については現在専門誌への投稿を準備中である。 一方、スタンナニトリル(R-Sn≡N,Rは置換基)の合成と性質の解明に向けた研究として、その前駆体化合物であるアジドスタンニレン(3;R-Sn-N_3,R=C_6H_3-2,4-Tip)の合成と構造決定に成功した。これに関しては現在詳しく研究中である。 この他、高周期14族元素の性質を解明する関連分野の研究として、ベンゼン環にケイ素-ケイ素結合を導入した化合物の合成と特異な分子内電荷移動蛍光の詳細について、2つの化学雑誌(Chem.Commun.誌およびJ.Phys.Chem.A誌)上で研究成果を発表した。
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