研究概要 |
アセチレンの炭素の1つを同族の高周期元素であるスズに置き換えた化合物であるスタンナアセチレンは,炭素のアセチレンとは異なり不安定で,発生後直ち隣接する原子と反応してしまうことを明らかにしていた.前年度は,置換基の立体的嵩高さのみを減少させたスタンナアセチレンを設計し,その反応性を詳しく研究した.今年度は,原料化合物のクロロスタンニレン(1;R-Sn-Cl, R=C_6H_3-2,4-Tip, R'=Si(i-pr)_3)とシリルアニオ-ンの反応について詳しく検討した.その結果,用いたシリルアニオンの嵩高さに依存して生成物の選択性が変化することを見出した.すなわち1と(t-Bu)_3SiLiの反応では,スタンニレン(2;R-Sn-Si(t-Bu)_3)を与え,1と(t-Bu)_2MeSiLiの反応では,スズラジカル(3;R-Sn-(SiMe(t-Bu)_2)_2)を与えた.これらの生成物はともにNMRスペクトルやX線解析により構造を決定し,その特異な性質を明らかにした.2は陽性元素が置換した単離可能なスタンニレンとして,3は単離可能なスズラジカルとして,ともに2例目となり,過去の研究とあわせて系統的な性質の比較が可能になった.そこで現在,スタンナアセチレンの実験結果とあわせてこれらの構造や反応性の特異性について理論的な解明を研究中である. この他、高周期14族元素の性質を解明する関連分野の研究として、シリル基が置換したπ電子系化合物の合成・構造研究を、化学雑誌(Chem. Lett. 誌)上において2報研究成果を発表した。
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