研究概要 |
昨年度は,アセチレンのスズ類縁体であるジスタンナアセチレンの合成研究途上,新規なスタンニレン(1;R-Sn-Si(t-Bu)_3)およびスズラジカル(2;R-Sn-(SiMe(t-Bu)_2)_2)の合成に成功した.これらの化合物は合成例も少なく,これらの構造について実験および理論の両面から研究を進めることが重要である.そこで,今年度は主に理論計算による構造の解明を計画していた. Gaussian O3プログラムを利用して,化合物1および2の最安定構造を計算した(B3LYP/3-21G*レベル).その結果,スタンニレン1の構造においては,Sn-Si結合の異常な伸長が再現され,Sn-Siσ結合からベンゼン環のπ*軌道との共役によることが示された.スズラジカル2の構造については,可視領域の電子スペクトルにおける2つの吸収体が,420nmはHOMO(σ(Sn-Si))-SOMO(5p)遷移,および530nmは,SOMO(5p)-LUMO(σ^*)遷移であると帰属することができた.また,これらの化合物は,以前我々が合成したスタンニレン(W. Setaka, et al., Organometallics,20,4460-4462(2001))の類縁体であり,その性質を系統的に比較することが可能になった. 本研究はこれで最終年度終了となるが,以下の成果が得られた.第一に,スタンナアセチレンの合成反応において,置換基の嵩高さに依存して寿命が変化し,また異なる捕捉生成物を与えることが示された.第二に,新規なスタンニレンおよびスズラジカルの合成に成功し,その性質を系統的に明らかにすることができた. この他、高周期14族元素の性質を解明する関連分野の研究として、シリル基が置換したπ電子系化合物の合成・構造研究を、専門誌上において3報研究成果を発表した。
|