本研究は芳香族系有機色素として広く実用化されているフタロシアニンの類縁体であるテトラアザクロリンの基本構造にフラーレンユニットを導入した一連の誘導体(複合体)を合成し、その構造と電子状態に関する知見を得ることを目的としたものである。 本年は原料となるジシアノフラーレンとフタロニトリル誘導体の縮合反応条件を検討し、今後の研究展開に十分な量の複合体を得ることができるようになった。さらに精製法についても検討を重ね、数種のクロマトグラフィーを組み合わせた方法で、次年度以降に予定している電子状態解析に必要な程度の純度が得られるようになった。又、核磁気共鳴法、質量分析法による化合物の同定を行い、分子構造に関する明確な知見を得た。 置換基を考慮しないモデル系で密度汎関数法による電子状態計算を行った結果、フタロシアニン部位とフラーレン部位が近接した影響で、両者の電子雲が混じり合い、特異な電子状態を形成する可能性が示唆された。得られた化合物の電子吸収スペクトルは典型的なフタロシアニンのそれとは明らかに異なり、このことから判断して、計算で予測された電子状態が実際の系で実現されているという結論が得られた。さらにフタロシアニンの周辺置換基を電子供与性のものから電子吸引性のものへと変えることで複合体の電子スペクトルが大きく変化した。これは電子雲の混合を実験的に証明するに足るデータである。 本研究で得られた複合体は既知の芳香族系色素には見られない興味深い分子構造、電子構造を有しており、この特徴を応用した新規な有機FET、高効率太陽電池等の機能性材料の開発研究が今後展開できるものと考えられる。次年度はより詳しい電子状態の解析を行うために磁気円偏光二色性スペクトル、サイクリックボルタンメトリーの測定・解析を行う。
|