1.スタンノールアニオン1及びジアニオン2の芳香族性の解明 スタンノールアニオン1とジアニオン2のX線構造解析、各種NMR測定、及び理論計算を行い、その芳香族性を吟味した。X線構造解析により、2の五員環は平面で、炭素-炭素結合交替がないことがわかった。また、^7Li NMRでは反磁性環電流に由来する高磁場のシグナルを観測し、理論計算により算出されたNICS値は負の小さな値となることがわかった。これらの結果を総合的に判断し、ジアニオン2はスズを骨格に含む初めての芳香族化合物であると結論付けた。この結果は、第5周期のスズのアニオン種でさえも炭素π電子系と共役しうることを示すもので、芳香族性の概念が炭素から遠く離れたスズにおいても成り立つことを示したという点で、基礎化学的に意義深い。一方、スタンノールアニオン1は、そのNMRの考察により、非芳香族化合物であると結論した。 2.ベンゾ縮環スタンノールアニオン及びジアニオンの合成と構造の解明 ベンゾ縮環の芳香族性に対する影響を調べるために、ベンゾスタンノールジアニオン3とジベンゾスタンノールジアニオン4を合成し、各種NMR測定、及び理論計算によりその芳香族性を調べた。ベンゾスタンノールジアニオン3の^7Li NMRでは反磁性環電流に由来する高磁場のシグナルを観測し、理論計算により算出されたNICS値は負の小さな値となったことから、ベンゾ縮環してもそれほど大きな芳香族性の変化がなく、3はジアニオン2と同じく芳香族化合物であることがわかった。現在、ジベンゾスタンノールジアニオン4の合成を検討中である。
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