研究概要 |
有機EL素子および有機トランジスタの研究開発において、キャリア輸送材料の開発は重要であり、様々な有機分子の合成研究が活発に行われている。前年度の研究では、固体中での強い分子間相互作用により、マクロサイクルは高いキャリア輸送性を有することが明らかになった。一方、分子の自己組織化を用いて分子集合体をデザインし、新たな機能を開発する研究が近年注目されている。そこで、本年度はキャリア輸送性を制御する目的で、自己組織化能を有するマクロサイクルの研究開発を行った。 具体的には、環状2-フェニル-1,3,4-オキサジアゾールオリゴマー:四量体と三量体を合成した。再結晶によって精製し、四量体のみ単離することに成功した。また、この固体は水分子を包接することが元素分析によって明らかになった。X線結晶構造解析の結果、結晶ではマクロサイクルが直線状に積み重なり、超分子チューブを形成していた。水分子はマクロサイクルの中央に位置し、チューブ中で一列に整列した特殊な構造を形成していた。このため、マクロサイクルのπ電子系に基づくキャリア輸送と水分子によるプロトン輸送を期待させる興味深い構造と考えられる。この超分子チューブは自己組織化によってバンドル(束状)構造に集合し、超分子ナノワイヤを形成した。SEMによると直径380nm長さ100pmの分子ワイヤが観測され、半導体デバイスの導電性分子ワイヤとして今後の発展が期待される。これらの結果について学会発表と特許出願を行うとともに、論文発表の準備を進めている。 その他に、有機EL素子の新規発光材料の開発を行い、りん光材料と蛍光材料を新たに合成してEur.J.Inorg.Chem.とHeterocyclesに成果を発表した。また、有機EL素子と有機トランジスタに向けた新規電子輸送材料を開発し、これらの結果をHeterocyclesにそれぞれ報告した。
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