研究概要 |
オリゴシランのシグマ共役はケイ素主鎖の立体配座に大きく依存する。これまでの研究から,SiSiSiSi二面角が180°であるアンチ配座がシグマ共役の拡張に最も効果的であると予想されている。そこで本研究では,双環トリシランである1,6,11-トリシラビシクロ[4.4.1]ウンデカン骨格を有する化合物を合成し,それをオリゴシランの構成単位として用いることにより,理想的シグマ共役系である完全all-antiオリゴシラン合成に成功し,その構造解析,光物性測定をおこなった。 X線結晶構造解析により,トリシランユニット単量体であるペンタシランにおけるSiSiSiSi二面角はほぼ完全に180°であることを確認した。また,トリシランユニット二量体であるオクタシランもX線結晶構造解析によりケイ素主鎖は理想的なall-anti構造を有することが明らかになった。 合成したall-antiペンタシランは,立体配座制御がなされていない対応するペルメチルペンタシラン(n-Si_5Me_<12>)に比べて強いUV吸収を示すことから,剛直な双環構造によって溶液中においてもケイ素主鎖が完全all-anti配座に制御されていることが強く示唆される。また,all-antiオクタシランのUV吸収スペクトルにおいて,σ-σ*遷移に帰属される吸収極大はペルメチルオクタシラン(n-Si_8Me_<18>)と比較して著しい長波長シフトと吸収強度の増大が見られた。このことから,all-antiオクタシランのケイ素主鎖配座は溶液中においてもall-anti構造が支配的であると考えられる。このように本研究では,本研究者が開発した双環トリシランはポリシランのケイ素鎖を完全all-antiに制御するための優れた構成単位になり得るという知見を得た。
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