研究概要 |
ドナー・アクセプター連結系分子を用いて電荷分離状態を得るには、最初の光誘起電荷分離過程が逆電子移動による電荷再結合過程よりもはるかに速く起こる必要がある。そのためには電子移動の再配列エネルギー(λ)を小さくすれば良い。その場合λが小さくなると、電荷再結合過程の速度は電荷分離過程の速度よりもはるかに遅くなることが可能となる。そこで、2次元のパイ電子系を有するフラーレンの電子移動特性について検討を行った。その中でも、再配列エネルギーが最も小さいと言われているフラーレンは最近特に注目を集めている。本年度では、トリニトロフルオレノンとフラーレンを連結させた分子に金属イオンを添加することにより、フラーレンを分子内電子移動酸化することによって長寿命電荷分離状態を生成させることについて検討を行った。 トリニトロフルオレノン-フラーレン連結分子(TNF-C_<60>)の脱酸素ベンゾニトリル溶液のサイクリックボルタモグラムでは4つの可逆な還元波と1つの酸化波が観測された。参照化合物のCVとの比較によりTNF(-0.40V vs SCE), TNF/C_<60>(-0.70V), C_<60>(-1.11V)の順で還元が起こっていることがわかった。一方、一電子酸化はC_<60>上で起こっていることがわかった。TNF-C_<60>の一電子酸化電位と一電子還元電位の差から電荷分離状態のエネルギーを1.89eVと決定した。次にTNF-C_<60>の脱酸素ベンゾニトリル溶液に530nmのレーザーフラッシュ照射を行い選択的にフラーレン部位を光励起すると、2マイクロ秒後に720nmに吸収極大を有する3重項励起状態フラーレン(^3C_<60>^*)に特徴的な過渡吸収帯が観測された。C_<60>の一重項励起状態のエネルギーは1.75eVであり、、この場合電子移動の自由エネルギー変化が正となるため電子移動は進行せず、項間交差によって^3C_<60>^*が生成したものと考えられる。この系にスカンジウムイオンを添加し同様な測定を行うと、C_<60>部位からTNF部位への電子移動反応が進行し、過渡吸収スペクトルで電荷分離状態が観測された。電荷分離寿命は室温で23ミリ秒と非常に長いことが分かった。この電荷分離状態は、溶液中における電荷分離寿命の世界最長記録(2007年2月現在)である。
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