芳香環に三重結合を導入したアリーン類はその反応性、および、特異な歪構造からから注目を集め、直接観測による詳細な構造の解明が展開してきた。芳香環に2個の三重結合を導入したのがビスアリーンであり、より大きな歪をもつ化合物である。拡張した共役系母骨格(ビフェニレン、アントラセン)とするビスアリーンを生成・捕捉し、その構造を解明するとともに、開環反応による新規な鎖状共役化合物の生成について明らかにすることを目的とした。昨年度、解明できなかったアントラジインの開環反応由来と考えられる生成物の分子構造を決定するため、より基礎的な構造を有するナフタイン由来の開環反応についての詳細な検討を行った。量子化学計算結果との比較検討によって開環が縮合環系内の三重結合を含有する環構造で起こった後に、二次的な開環反応に至る過程が明らかになりつつあるが、後者の反応では二分子以上に分裂している可能性も示唆されており、完全な解明のために更なる検討を要する状態である。また、ビフェニレンテトラカルボン酸二無水物の合成を低温マトリックス中で生成するベンザインジカルボン酸無水物の二量化反応により試みた。原料であるベンゼンテトラカルボン酸二無水物を波長選択レーザー光分解により定量的にベンザイン誘導体に変換した後、昇温によりマトリックスを気化させ、濃縮し、二量化反応を誘起する。二量化反応を誘起し、さらに静止物を回収するためには極めて厳密な温度制御が必要であった。ようやく条件を設定し、生成物の回収に成功した。回収した生成物は367nmに最低遷移の吸収帯を示した。この遷移は、原料のもの(309nm)、あるいは、ナフタレン母骨格のもの(361nm)よりも低エネルギー側にみられていることからより共役系の拡大した目的化合物であると考えられる。現在、回収した生成物による低温マトリックス形成について鋭意検討をすすめている。
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