研究概要 |
本研究の目的は,アザフェロセンと総称される有機金属分子の光化学反応による動的構造変化を利用した可視光応答型重合触媒の開発である.アザフェロセンとは,この分野において膨大な論文掲載数を占めるフェロセンと類似した鉄化合物であり,鉄原子に対してシクロペンタジエニル(C_5H_5)環とピロリル(NC_4H_4)環との2個の有機基によりπ電子結合されたサンドウィッチ型分子である.熱的に安定なフェロセンと比べ,アザフェロセンの鉄原子周辺の結合は比較的弱く分子自身の安定性が乏しい.そのため,光による外部刺激から構造変換されるが,これを制御することは困難であった.本年度は,アザフェロセン類の合成とその光化学反応の精査をおこない,その光応答性に関する基礎的知見を得,制御可能な光重合触媒としての評価した.強い配位能をもつホスフィン存在下において光照射により励起される不安定中間体を捕捉し,その構造をX線単結晶解析により明らかにした.その結果は予想通りにπ結合したピロリル配位子はハプトトロピー転位反応を伴い窒素原子による単座配位,ホスフィンが配位したハーフメタロセン型錯体であった.無置換のアザフェロセンでは光照射下,及び加熱条件下どちらでも反応は進行するが,アルキル化されたアザフェロセン誘導体では光反応のみ効率よく進行した.後者は応答型重合触媒として適した光特異性を示し,太陽光を用いても同様な反応が進行した.アルケン,アルキン等の不飽和有機分子または環状エーテル類を用いて光触媒反応も検討した.数種類の小分子は光重合反応が進行し高分子体を与えた.しかしながら,長時間の光照射は触媒の失活,分解を伴い,分子量及び光反応の制御まで至らなかった.平成18年度はこれを改善すべくため,アザフェロセンの上下環に橋架け部位を導入したフェロセノファンを構築し,重合中でも配位子の解離を抑制した重合触媒の機能性を追及する.
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