研究概要 |
本研究の目的は,アザフェロセンと総称される有機金属分子の光化学反応による配位構造変化を利用した可視光応答型重合触媒の開発である.アザフェロセンとはフェロセンと類似した化合物であり,鉄原子に対してシクロペンタジエニル(C_5H_5)環とピロリル(NC_4H_4)環とπ結合で挟まれたサンドウィッチ型構造の分子である.フェロセンと同様に,アザフェロセンは可視光領域に最大吸収波長を持つことから,光照射によりFe-NC_4H_4配位子が活性化する.17年度には,ホスフィン存在下におけるアザフェロセンの光反応により励起された生成物を捕捉し,その構造をX線単結晶解析より明らかにした.18年度は,アルキン,アルケン等の不飽和有機分子,環状エーテル類の光重合反応を検討した.電子吸引性基をもつアルキン分子との反応では,光照射を必要とせずにアルキン分子の環化三量体,ピロリル環と二分子のアルキンから構成されるインドリジン誘導体を与えた.その反応を調査すると,反応中間体に相当する鉄二核錯体が単離された.その構造解析の結果,2分子のアルキンから五員環メタラサイクルを形成した化合物として同定された.本研究の目的である光照射のONとOFFにより重合反応を制御する理想的な触媒開発は困難であったが,Fe-NC_4H_4結合開裂によりアルキン分子を活性化する反応を見出した.また,アザフェロセンはピリジンと同様に遷移金属錯体に対して窒素配位することが可能であるため,酸化還元特性をもつメタラリガンドとして機能する.種々の銅錯体との反応では,アザフェロセンが配位した銅単核,二核錯体をいずれも良好な収率で与えた.これらの銅錯体の電気化学測定の結果,多段階の酸化状態を示すことがわかった.このようにして,アザフェロセンは光反応や電気化学反応に対して活性を示す興味深い分子であり,本研究の成果により新しい分子触媒としての展開が大いに期待される.
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