近年、生体膜のイオンチャンネルを模したタンパク質やDNAなどの分析法が注目されている。これは、電極表面に構築した分子認識単分子膜への測定対象物質の特異的な結合を、バルク中に添加した電極活性イオンの応答の変化から間接的に検出するものである。応答の変化は電極活性イオンの膜との静電的な相互作用や立体障害などによる膜透過性の変化に起因する。この手法の興味深い点は、測定対象物質が電気化学的に活性である必要がなく、膜表面における測定対象物質の認識が多量のイオンを移動させるという意味でシグナルの増幅能を有している点である。 本研究では、電極表面に構築したタンパク質の多層膜が持つ静電的特性をセンシングに反映させた新しいイオンチャンネル型イムノセンサーの開発を試みた。タンパク質トキシン、ウイルスのシュミラントとしてのオボアルブミン(OVA)とMS2を用い、バイオテロリズムエージェント検出のためのイオンチャンネル型センサーの基本的な原理の確立を目標とした。 まず、被検物質認識膜の基盤となるビオチン/アビジン自己集積膜における種々の電極活性イオンの電極挙動を、等電点や分子量のことなるアビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジンを用いて調査し、ストレプトアビジンが[Fe(CN)_6]^<3-/4->の電極応答を最も阻害しない抗体膜の基盤として有用であることを明らかにした。ビオチン/ストレプトアビジン膜上に抗体を修飾しセンサーとした。本研究で用いたセンサーの応答はOVAと反応させることにより増大した。このシグナルの増大はOVAの等電点(pI4.6)よりも少し高いpHの溶液のみで観測され、等電点よりも低いpHではブランクシグナルとの明瞭な差異が観られず、高いpHでは電極活性イオンの応答がOVAとの反応により著しく減少した。このシグナル増大の理由は今後詳細に検討しなくてはならないが、抗体と結合したOVA分子同士の静電的反発により、膜表面上の抗体の立体構造が変化し、[Fe(CN)_6]^<3-/4->の膜透過性を増大させたものであると考えている。
|