本年度の成果として、トリスオスミウム錯体導入ピロール共重合膜を用いたグルコースセンサーの作製とその評価が挙げられる。酵素反応を利用したバイオセンサーの構築の場合、酵素反応で生じる電子授受を電極へ効率的に伝達する物質(メディエータ)が必要とされる。メディエータは適度な電位を有し、化学的に安定かつ高速な電子交換反応を有する物質が望ましく、フェロセン、ルテニウム、オスミウム錯体などの金属錯体がよく利用される。特にトリスビピリジン-オスミウム錯体は高速な電子交換反応を有しており、メディエータとして有用な物質である。そこで、電解重合モノマー(ピロール)にトリスビピリジンオスミウム錯体をメディエータとして導入したモノマーを合成し、このモノマーを電極に固定したセンサーの構築を行った。電解重合時には、ポリマー内部に酵素を固定できるため、電解重合薄膜内に酵素-トリスビピリジンオスミウム錯体の同時固定が可能となる。このセンサーは酵素とメディエータの双方を電極感応面に有しているため、分析対象物質の測定において、メディエータあるいは酵素を添加する必要がないことから、このようなセンサーをreagentlessセンサーと呼称することがある。本研究で作製した電極はグルコースの良好な検出および定量結果を得るとともに、100日を越える応答の安定性を示した。また、通常のトリス型オスミウム錯体ではアスコルビン酸などの易酸化性共存物質による妨害が問題であったが、今回メチル基置換トリス型オスミウム導入ピロールを用いたところ、電位を負電位側にコントロールすることにより、これらの妨害物質からの影響を低減することが可能であった。 また、高い金属イオン捕集能を有するイミノジ酢酸樹脂を炭素ペースト内に練りこんだ電極の作成を昨年度から継続して実施し、天然水中鉛の定量を実施した。その結果、天然水標準物質試料中鉛を精確かつ簡便に定量出来ることが確認された。
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