研究概要 |
標的分子と相互作用することで蛍光や吸光スペクトルが大きく変化するアプタマーが多数提案されている。最も一般的なものは,核酸の両末端に蛍光団と消光団を結合させたFRET型のアプタマーで,分子の検出のみならず遺伝子診断などにも利用されている。しかしながら,同現象を細胞内などで利用する場合,生体内に存在する多くの生体成分が蛍光団や消光分子に与える影響を排除することは困難であり,アプタマーのさらなる高性能化を図るためには,FRETとは全く異なる応答原理を核酸に付与する必要がある。本研究では,脱塩基部位を有する二本鎖DNAに蛍光応答能を付与させることで新規バイオセンサーの構築を提案している。本年度は,脱塩基部位を有する二本鎖DNAと水素結合性小分子とのモデル系を構築し,脱塩基部位における分子間相互作用の解析を行った。計算化学と^1H NMR,^<15>N NMR測定法を併用することで,水素結合性小分子の興味深い水素結合様式を明らかとした。すなわち,脱塩基部位でシトシン(C)と選択的に結合するナフチリジン誘導体(AMND)の結合様式は,1位の窒素上にプロトンが付加したAMNDH^+が三本の水素結合を介してCと結合するというユニークな結合様式であることが明らかとなった。また,生体小分子であるリボフラビンと結合するアプタマーを開発した。本研究で開発したアプタマーは,DNA二重鎖の配列中央に脱塩基部位を形成させたシンプルな構造で,脱塩基部位の向側にピリミジン塩基(C,T)を配置した場合にのみリボフラビンと強力に結合する。NMR測定の結果などから,リボフラビンは二点の水素結合を介してアプタマーと相互作用し,結合定数は天然のアプタマーとほぼ同程度であることが明らかとなった。本年度の成果は,次年度以降に計画しているアプタマーへの蛍光応答能導入の際に重要な知見となる。
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