表面を4級アンモニウムカチオンにより保護した金ナノクラスター(直径数十ナノメートル)のトルエン溶液に空気下でフラーレンを混合すると、いったん生じた沈殿が時間の経過とともに消失し、この過程でフラーレンの物質変換が進行することを見いだした。例えば、キラルなフラーレンであるC_<76>のエナンチオマーと金ナノクラスターを混合すると、C_<76>エナンチオマー由来のCDシグナルが時間とともに減少し、C_<76>の炭素骨格に由来するキラリティーが消失することが示唆された。C_<60>を原料とする系の反応生成物をゲル濾過によって反応混合物から分離し、HPLCや質量分析による検討を行ったところ、フラーレンの酸素添加物が生成していることが分かった。また、フラーレンの炭素原子間や酸素原子を介して共有結合的に連結した二量体の存在も確認された。反応機構の解明のため、酸素濃度の大きく異なる系で反応を行ったところ、酸素下では反応は加速する一方、系を脱気して酸素を極力除いた系では異なる生成物が観測され、系中の酸素が反応に大きな影響を及ぼすことが分かった。 これとは別に、チオールを有するポルフィリン環状二量体を合成し、フラーレンに対する親和性を滴定等により検討したところ、サイズの異なる種々のフラーレンを強く取り込むことが確認され、このポルフィリン環状二量体がフラーレン類似金ナノクラスターを構築するに適切な場としての性質を有していることを実証した。
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