生物は複数の機能性分子を用いて高次組織体を構築し、単体には見られない機能を発現している。近年の有機合成化学のめざましい発展によって分子量数百以下の比較的低分子については、合成の方法論が確立されつつあるが、分子量が千を超えるような分子複合体構築のための方法論は未だに限られている。本研究では巨大分子複合系を構築するための方法論を開拓すると同時に、複合化によって初めて発現する機能を見出してゆくことを目的としている。ポルフィリンマクロリングとエネルギーアクセプターの超分子複合化の研究においては、ピリジン基を3つ持つリガンドの会合定数が2.1E7 1/Mであり、ピリジン基とフラーレンをもつりガンドでは3.1E8 1/Mであったことから、金属-配位子の3点配位による複合体形成よりも、2点の金属-配位子相互作用とフラーレン-ポルフィリン相互作用の組み合わせのほうが有効であることを見出した。これら複合体の光化学特性を蛍光分光装置を用いて調べたところ4当量のリガンド添加した時にマクロリングの蛍光が95%消光しており、励起されたポルフィリンから分子内に取り込まれたフラーレンにエネルギー移動もしくは電子移動が効率よく起こっていることがわかった。これらの成果は、人工光合成素子作成への発展が見込まれる。また、上下にカルポン酸を計6つ有するポルフィリンマクロリングを脂質2分子膜中に導入したところ、大きなイオンチャネル電流が観測された。また、カチオン性のデンドリマー分子を添加、除去することによってイオンチャネル電流をオン・オフ制御できることを明らかにした。この結果は2分子のポルフィリンマクロリングがカルボン酸の協同的な水素結合によって、超分子科学的に垂直配向し、膜を貴通するナノポアを形成していることを示している。今後、膜を介した物質輸送などへの応用が期待される。
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