アライン(ベンザイン)は反応性に富む二官能性の活性種であるうえ、医農薬・液晶性分子等に代表される機能性π共役分子の基幹構造である芳香族骨格を導入できる合成素子であり、その有機合成への利用は極めて魅力的である。本研究では、アラインを反応母体とした新規多成分連結反応を開発し、多様な芳香族縮合複素環を創製することを目的とした。具体的には、アラインの高い求電子性に基づき、中性求核剤との作用で生ずる双性イオンのアニオン部とカチオン部とを任意の第三成分(求電子剤)で連結することで、標的複素環骨格の構築を計画した。求核剤、求電子剤の組み合わせを種々検討した結果、求核剤に炭素-窒素二重結合種の芳香族アルドイミン、求電子剤に二酸化炭素を用いると、期待したアラインとの三成分連結反応が進行し、ベンゾオキサジン骨格を一段階、高収率で構築することに成功した。イミンの芳香族部には、4-メトキシフェニル基のような電子豊富なもの、および1-ナフチル基、メシチル基のような立体的に嵩高いものを、イミン窒素上には、第一級および第二級アルキル基をもつものを用いた際に三成分連結反応は円滑に進行し、極めて広範なイミンが利用可能であることを明らかにした。また、アラインに関してもその適用範囲は広く、特に、三重結合部位の隣接位に導入した置換基の電子的・立体的効果により、イミン付加の位置選択性を高度に制御できることも見つけた。反応の効率的進行に必要な二酸化炭素圧は一気圧であり、反応系を二酸化炭素雰囲気にするだけで充分であった。
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