研究概要 |
本研究ではリビングラジカル重合の一種である可逆的付加-開裂連鎖移動(Reversible Addition-Fragmentation Chain Transfer ; RAFT)型重合法を用いて、両末端反応性オリゴマー並びに末端反応性グラフトポリマーを開発することを目的としている。昨年度は、新規な両末端反応性RAFT剤の開発から研究を開始した。その結果、ウレタン化など幅広い応用が期待できる水酸基を持つ新規RAFT剤を、室温・空気存在下で市販試薬を精製せずに用いても定量的に合成できる手法の開発に成功した。特に炭酸セシウムがRAFT剤の合成に非常に有効であったが、今年度はより安価で工業的にも有利である炭酸カリウムを用いても、効率的にRAFT剤が合成できることを見出した。更に本法を用いることで、加水分解を受けやすいアリールカルボン酸エステル誘導体からもRAFT剤を収率80%前後で得ることができた。それらエステル基を有するRAFT剤を利用したスチレンのリビングラジカル重合を試みた結果、昨年の両末端水酸基RAFT剤の場合と同様に分子量分布の狭いポリマーを得ることに成功した(四種類の新規RAFT剤、Mw/Mn=1.11-1.19)。これらのRAFT重合によって得られたポリマーへの置換基導入の分析に関して、昨年度は合成した両末端水酸基スチレンオリゴマー(Mn:2,250,Mw/Mn=1.15)を^1H NMR並びに元素分析した結果、両末端に定量的に反応性水酸基が導入されていることを確認した。今年度はその水酸基オリゴマーならびに今回の両末端エステル基ポリマーのアミノリシス反応を行ないGPG分析を行なった結果、反応以前より低い分子量で且つ単峰性であり分子量分布も同等(狭い)のポリマーが生成していることが確認された。このことはラジカル重合の際に、RAFT剤由来のトリチオカルボニル基が生成ポリマーのほぼ中央に導入されていることを示している。すなわち、新規RAFT化合物群によるラジカル重合が良く制御された反応系であることを支持する結果のひとつである(重合のリビング性は昨年度に反応の経時変化より証明している)。また、今年度合成したRAFT剤ならびに分子量制御ポリマーの両末端エステル基はカルボン酸基・イソシアネート基などへ容易に変換可能であり、それらの知見を基にして新たな両末端反応性オリゴマー合成への応用が期待できる。
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