研究概要 |
1 目的:共有結合・配位結合・イオン結合・金属結合・分子間力・水素結合などの古典的な化学結合に加え、C-H/πのような弱い相互作用が分子性結晶中の分子配列制御、RNAやタンパクのコンホメーション安定化、イオン導電性、オレフィン重合触媒活性などに深く関与していることが明らかにされつつある。本研究では高分子-高分子、高分子-有機低分子、高分子-無機低分子、有機低分子-有機低分子間での種々の弱い相互作用を共役高分子(σ、π共役)のコンホメーション変化(剛直性変化・不斉誘起)として協同的に増幅・転写・増幅させることにより、弱い相互作用を高感度に検出するシステムを構築することを目的としている。本年度は、不斉基を含まないポリシラン(poly[η-decyl-isobutylsilane],PDBS)/高純度リモネン((S)-、(R)-体)/テトラヒドロフラン溶液中に、PDBSの貧溶媒であるアルコールの添加によって生じる微粒子系を用いて、σ共役高分子一キラル低分子系でのらせん誘起・増幅・反転を検証した。特に、(1)PDBS分子量依存性(M_n=1.5x10^4-1.9x10^5)、(2)アルコールの溶解度パラメータ依存性、(3)アルコール/リモネン体積分率依存性について詳細に検討した。 2 結果:(1)PDBS分子量依存性:PDBS/リモネン/アルコール凝集体系において、らせん誘起・増幅効果が最も効果的に発現する最適のPDBS分子量を実験的に求めた。中分子量(2.1x10^4<M_n<3.3x10^4)において顕著ならせん誘起が確認された。一方、低分子量(M_n<1.5x10^4)、高分子量(M_n>9.4x10^4)ではらせん誘起はほとんど起こらなかった。 (2)溶解度パラメータ依存性:溶解度パラメータが異なる3種のアルコール(isopropanol(IPA)<EtOH<MeOH)を貧溶媒として用いたときのらせん誘起効果をgabs値にて比較検討した。その結果、gabs値はIPA>MeOH>EtOHとなり、らせん誘起がアルコールとPDBSの溶解度パラメータとの相関のみならず、他の要因も影響していることが示唆された。(3)アルコール/リモネン分率依存性:アルコール/リモネン体積分率のみでらせん誘起-らせん反転の制御に成功した。(2)の検討中、リモネン/MeOH=1.0/1.7においてCDシグナルの反転現象を見出した。これは(S)-、(R)-体リモネンのいずれでも確認され、貧溶媒誘起のらせん反転現象であることを明らかにした。一方、IPA、EtOHは同様の操作を行ったがらせん反転は確認されず、MeOHに特異的な効果と考えられた。 これらの結果を、第54回高分子討論会(1PA040)ならびに第14回ポリマー材料フォーラム(1PC09)にて発表し、国内特許出願(特願2005-255754)した。
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