申請者は温度や溶媒組成により体積相転移を示すポリN-イソプロピルアクリルアミド(PNIPA)ゲルの水中における収縮過程において、ゲルのサイズ変化が単調緩和でも二段階収縮でもなく、多段階で収縮することを初めて観測した。また、ゲルの収縮過程はゲルのサイズ及び温度に大きく依存するが、その関係が一般の相転移現象の特徴であるスケーリング則に従うことを初めて見出した。収縮に伴い一時的に現れるサブミリメータースケールの網目構造はこれまでPNIPAゲルのユニークな現象としてのみ認識されていたが、申請者は網目構造が定量的に議論できる可能性を見出し、網目構造の生成過程がゲルの収縮速度に関係していることを示した。これらのマクロスコピックなゲルの体積相転移過程の研究は、ゲル内の物質輸送現象とそれに伴うゲルの変形を調べるのに格好の題材であり、申請者は高分子ゲルの体積相転移過程で観測されるサブミリメーターの網目構造形成と光散乱ゆらぎ(密度ゆらぎ)の経時変化を同時に測定するためのシステムを組上げた。現在、申請者は網目構造の生成・消滅メカニズムを明らかにしつつあり、上述に関して論文2報を発表した。また、「ポリN-イソプロピルアクリルアミドおよびそのモノマーユニット化合物の水溶液における相転移現象」という題目で、高分子ゲルの体積相転移現象、高分子のコイル-グロビュール転移及び低分子モデル化合物の二液相分離現象の三者を比較することにより溶媒としての水との相互作用における高分子性を明らかにし、第28回溶液化学シンポジウムにてポスター賞を授与された。
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