本年度は、赤外ポンプ光照射による振動誘起表面反応を制御する前段階として、無電解メッキ法でSiプリズム上に赤外表面増強場を作製し、この表面に可視光ポンプパルスを照射した際の吸着分子の挙動を波長可変赤外ピコ秒パルスを用いて高感度時間分解観察する方法を確立した。 Siプリズム上にPt薄膜電極を作製し、単分子吸着層(CO)のピコ秒時間分解赤外吸収スペクトルの測定に成功した。COが吸着した表面に、可視光ポンプパルスを照射すると、COの伸縮振動数が光照射後200ピコ秒かけて、約6cm^<-1>低波数シフトする様子を見いだした。このCOの低波数シフトは、表面温度上昇により励起されたCO束縛振動モードとのカップリングによる成分(約1cm^<-1>)と、電極電位の変化による成分(約5cm^<-1>)とに分離された。前者の時間挙動は表面の温度上昇と一致し、ポンプ光のパルス幅(35ピコ秒)で最大になるのに対し、後者は約200ピコ秒の遅延があった。この遅延時間はレーザー照射による電位変化に要する時間と電位変化後表面からCO分子への逆電子供予に要する時間の和を反映している。レーザー照射による電位変化は、電気二重層領域にある水分子の配向が温度によって変化するためであるが、観測された-5cm^<-1>のシフトは-160mVの電位変化に対応し、これは水単分子層の2度以下の配向変化に対応することが分かった。 本研究で見いだされた手法は、他の電極反応ダイナミクスの研究に応用出来る。電極ダイナミクスの研究には従来外部電位を印加する方法がとられてきたが、電気二重層の充放電効果によりミリ秒からマイクロ秒の時間領域に制限されていた。本研究の手法は、ピコ秒領域の電位変化を可能にし、しかも電極のフェルミ準位を動かすため、実際の反応条件下における界面電荷移動過程の研究に結びつけることが出来る。
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