1.ベシクル構成分子として長鎖末端にベンズアルデヒドの結合した2本鎖型両親媒性分子を合成した。これに水溶性アニリンを脱水縮合させたイミン誘導体を養分と見立て、別途合成した蛍光標識型触媒を用いたベシクル自己複製系に対し、フローサイトメトリーの手法を利用したダイナミクスの統計的解析をおこなった。その結果、2世代目のベシクルのサイズ分布は1世代目のものと近いが、触媒の量は減少していることが示された。さらに、2世代目のベシクルに触媒の水溶液を添加することにより触媒の量を回復させて、安定に自己複製が繰り返されるようになった。 2.疎水末端にフランを有する両親媒性分子を合成し、水溶液中におけるDiels-Alder反応について検討をおこなった。重水中でジエノフィルであるマレイミドを添加し、^1H NMRスペクトルの経時変化を観測したところ、徐々にDiels-Alder生成物に帰属されるシグナルの強度が増大していくことが確認された。さらに、これらより作製したジャイアントベシクルにマレイミドを添加した際の形態変化を光学顕微鏡により観測したところ、反応の進行に伴い、1本鎖型分子と2本鎖型分子の1:1混合物より作成したべシクルについては膜の硬化というダイナミクスが、さらに1本鎖型分子と2本鎖型分子の4:1混合物より作成したべシクルについてはジャイアントベシクルの融合が起こることを見出した。これらのダイナミクスは反応により膜分子が後天的に水素結合サイトを獲得し、膜内および膜間水素結合を形成することにより引き起こされると考えられる。このような化学反応によりジャイアントベシクルの融合が引き起こされる系は高い新規性を持つものと考えられる。 3.疎水末端にマレイミド基を有する両親媒性分子を合成し、水溶液中におけるDiels-Alder反応について検討をおこなった。長鎖アルキル基の結合した脂溶性フラン誘導体の形成する油滴に対し、マレイミド型両親媒性分子のミセル溶液を添加すると、Diels-Alder反応の進行に伴い油滴表面からチューブ状ジャイアントベシクルが形成されていく様子を観測することに成功した。
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