近年、有機配位子と金属イオンから分子サイズ程度の細孔をもつ多孔性結晶(多孔性配位高分子)が合成できるようになっている。これらは従来の多孔性物質(ゼオライト、活性炭)では実現しにくい「完璧に近い規則性」、「設計性の高さ」、「大きな空隙率」を特徴として有する。このような機能性ナノ空間は有機高分子鎖がちょうど一本で包接される程度の大きさであり、重合反応場として利用すれば、得られる高分子の立体規則性、定序性、分子量が制御可能になるだけではなく、多数の高分子鎖の配列や高次構造が精密に制御された新たな有機無機ナノ複合体になることが期待される。そこで、我々は多孔性配位高分子の形成するナノチャンネル中でスチレンのラジカル重合を試みた。その結果、細孔のサイズや形状により重合が良好に進行するものと、全く進まないものがあった。固体状態のNMR測定より、ナノ細孔内でのスチレンの運動状態がこの重合挙動に大きな影響を及ぼしていることがわかった。また、細孔中の成長ラジカルはバルク重合の成長ラジカルに比べてはるかに高濃度、超寿命であったことと、得られたポリスチレンの分子量分布がバルク重合で合成されたものより相当狭かったことから、ナノ細孔中での反応が"リビング重合的"に進行していることが示唆された。また、細孔内に存在するポリスチレンの運動性がバルク状のポリスチレンとは大きく異なっており、これは配位高分子のナノ細孔中でポリスチレンが単分子鎖で存在し、孤立した状態になっていることがわかった。同様に、他のビニル系モノマーを用いた場合でも、高収率でラジカル重合が進行したことから、このような細孔内での重合により、有機高分子の構造、分子量、配列を精密に制御できる有用な手法になることが示された。
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